自筆証書遺言保管制度を利用するにあたって~実際にサポートしてみて感じたこと その1~

今回、遺言書作成のご相談を受けたお客様が法務局での自筆証書遺言保管制度を利用することになりました。
財産状況や親族関係からみて遺言は遺しておいたほうが気持ち的に安心、でもお金をかけて公正証書遺言にするのも正直もったいない、という状況で、ご本人死亡後に家庭裁判所で相続人一堂に会しての検認はできれば避けたいという親族の気持ちもあり、自筆証書遺言を法務局に預ける方法を選択しました。
自筆証書遺言保管制度が昨年7月に始まってから1年弱、せっかくなので、実際に法務局に遺言書を預けるまでをサポートして感じたことを書いてみます。
まずは、預ける遺言書の作成方法についてです。


法務局に預ける自筆証書遺言を作成する際の注意点

自筆証書遺言については、民法第968条に明確に要件が定められています。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

まず、全ての文章、正確な日付、氏名を自分で書き、押印することが自筆証書遺言の要件です。印鑑は認印でも構いませんが、後々のことを考えて実印のほうがお勧めです。
全文を自筆で書くという点については、平成30年の民法改正で、財産目録の部分は、PCで作成したものでも謄本や通帳のコピーに署名捺印したものを添付してもOKになりました。ただし、添付の用紙一枚ごとに署名捺印が必要です。印鑑は同じものという指定はありませんが、できれば同じ印鑑で統一したほうが無難です。
財産目録の部分は自著でなくてもよくなったとはいえ、ご高齢の方はもちろん、文字を打ち込むことに慣れた世代にとっても、全文間違えずに自著するというのは、かなりの労力を要します。間違えた場合の訂正方法も細かく定められており、かなり気を使って修正しなければいけないので、全部書き直したほうが安心な場合もあります。
ですので、手元が覚束なくなってきたご高齢の方が自筆で書く場合は、遺言の内容や書き方はできるだけシンプルにすることをお勧めします。財産が多岐にわたったり、相続させる旨の記載が込み入ったものになったりするような場合は、公正証書遺言をご検討いただいたほうがよいかもしれません。

さらに、法務局に自筆証書遺言を保管申請する場合、法務局がスキャンして保管するため、上記の民法上の要件に加え、非常に細かく様式が指定されているので作成前にきちんと所定の様式を確認しておきましょう。

<法務局で求められる様式や記載上の留意事項>
①用紙サイズはA4限定。*下記の法務省HPに遺言書用にダウンロードできる用紙が掲載されています。
余白を必ず確保する。 上部5ミリメートル,下部10ミリメートル,左20ミリメートル,右5ミリメートル
片面のみに記載。裏面には何も記載しない。
ページ番号 例えば、自著する本文と財産目録2枚の計3枚の場合、1/3、2/3、3/3と記載する。
 このページ番号も、余白ではない箇所に記載をしなければいけない。
④ホッチキス止め不要。
⑤封筒に入れない。
⑥財産目録を添付する場合
・不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)が2枚以上合綴されている場合は、物件が特定できる1枚目のみの添付で可。
・財産目録とする添付書類も上記と同じ余白が必要。余白部分を避けて一枚ごとに署名捺印する。
 必要に応じて縮小コピーをして使用する。
⑦遺言者の名前は、戸籍通りの氏名を記載する。

*詳細な様式は、法務省のHP「自筆証書遺言保管制度 03遺言書の様式等についての注意事項」に非常に丁寧に説明されています。 http://www.moj.go.jp/MINJI/03.html

これまで相続登記等で拝見してきた自筆証書遺言は、便箋等を使い、余白も特に意識することなく、ページ番号も書かれていないものが多かったように思います。それと比べると、法務局に預ける遺言は、いろいろと気を使わないといけないようになっています。ご高齢の遺言者がようやく書き上げて法務局に持参したのに受け付けてもらえなかった、ということにならないよう、しっかり確認して作成するようにしましょう。

実際に預けに行くにあたっての準備等については、また次回書きたいと思います。