信託活用事例5:脳梗塞で倒れた父の不動産の管理処分+海外在住の兄弟との煩雑な相続手続きを避ける

国際化の進んだ現在、ご家族が海外在住の方も珍しくありません。ただ、いざ相続が発生した際に、遺産分割協議に基づいて相続登記をするためには、必要書類の収集から押印まで、非常に手間と時間がかかる例が多く見られます。
今回は、先に亡くなった母親の相続手続きに苦労したご家族が、父親の生前の財産管理と併せて、すべての財産について承継先を決めておくため、家族信託と遺言作成をしたケースをご紹介します。

所在、年齢等は多少構成を変えております。

【相談内容・背景】
本人Iさんは退職後、東京から北海道に移住して暮らしていましたが、長年連れ添った奥様を突然亡くされたばかりでした。子どもは3人おり、長男は北海道、二男は海外、長女は東京に在住。奥様の相続時には、仕事で多忙な長男、海外在住の二男の必要書類を整えるのに苦労しました。Iさんは、自宅のマンション(北海道)、土地建物(東京)、別荘(山中湖)を所有しており、あまり使わなくなっている山中湖の別荘は、そのうち処分したいと考えていました。実はIさん自身も脳梗塞で倒れたことがあり、リハビリで通常の生活が送れるまでに回復しているものの、またいつ同じように倒れるか分からないという不安がありました。また、子どもたち3人の間では、末の妹CさんがIさんの遺産をすべて相続して構わないが、Iさんの生前の世話はCさんに任せたい、との話が出ていました。

【課題・ご希望】
・Iさんの意思能力は現在はしっかりしているが、再度脳梗塞の症状が出た場合のことを考えると非常に不安である。
・Iさんの資産は不動産が多いため、もしいざ施設に入所という際に資金が足りなくなった場合には、不動産を処分できるようにしておきたい。
・遺産はすべて長女Cさんが相続して構わないという兄弟間の合意があるので、相続の際にまた煩わしい手続きに苦労しないよう、予め相続先を指定しておけるならぜひそうしておきたい。
・信託する財産だけでなく、すべての遺産について、相続時にスムーズに手続きができるようにしておきたい。

【解決策:家族信託+遺言】
<信託スキーム>
委託者:Iさん
受託者:長女Cさん 第二受託者:孫Dさん(Dさんが未成年の間は、第二受託者は長男Aさんとする。)
受益者:Iさん
信託財産:北海道の自宅マンション、東京の土地建物、山中湖の別荘、現金少々
信託終了:受益者Iさん死亡時 
信託終了時には、残余財産は、長女Cさんが取得することとし、Cさんが先に死亡していた場合には、孫のDさんが取得することとしました。

IさんとCさん両名が公証役場にて信託契約公正証書に署名押印し、後日、Cさんが信託銀行で信託口口座を開設しました。

<遺言>

遺言者Iさん  遺言内容:「信託財産以外の一切の財産を長女Cに相続させるものとする。」
年金や信託しなかった金銭等のIさんの相続財産すべてについても、長女Cさんが相続する旨の公正証書遺言を家族信託同日に公証役場で作成しました。

【家族信託+遺言をして得たもの】
長女Cさんは、元々ご自身がお父様Iさんの面倒を見るおつもりでしたが、家族信託をしたことによって今後の費用の捻出についても安心してお世話をしていくことができるようになりました。
また、家族信託で帰属権利者として指定し、遺言書も同時に作成したことで、Cさんがすべての財産を相続する旨をきちんと形として表すことができましたし、同時に相続時の煩雑な手続きも不要となりました。

信託契約締結から1年ほど経過後、Iさんは再び脳梗塞で倒れられました。
幸い命に別状はなく、再びリハビリをされていらっしゃるとお聞きしましたが、家族信託をしておいて本当によかったとご家族の方がおっしゃっていました。

もちろんずっとお元気でいらっしゃるのが何よりですが、本人やご家族の生活を守るために、家族信託に限らず、対策を講じておくことは非常に大切だと改めて感じました。

※今回のケースは、長男、次男の遺留分を侵害していますが、Iさんの奥様の相続時にご家族とご連絡を取らせていただいた経緯もあり、ご家族間での合意が取れていることがきちんと確認できていたため、特段問題となることはなく信託を組成しました。
金融機関によっては、遺留分を侵害している場合は、信託口口座の作成を受け付けてもらえないケースもありますので、慎重に進める必要があります。